パートナーコンサルタント 三枝 元(中小企業診断士)
◆働き方改革では日本の生産性はあがらない
「日本の労働生産性はOECD加盟36カ国中21位である。日本経済のカギは労働者の生産性にかかっている」そんな議論をよく目にします。特に働き方改革が叫ばれるようになったここ数年、私の所属する中小企業診断士の界隈でも「生産性の向上」についてよく話題になります。最近では「新型コロナの影響でリモートワークが進み、生産性の向上が進む」といった主張もみられます。
私はこうした意見をかなり冷ややかにみています。いわゆる働き方改革なるものが進んだとしても日本の生産性はまちがいなく上がらないでしょう。1990年代の後半からのITの進展により、私たちの業務効率は飛躍的に上がりましたが、日本の実質労働生産性上昇率は、1.6%(1995~1999年)から0.4%(2015~2017年)に低下していることからも明らかです(数値は日本生産性本部調べ)。
◆生産性を上げるために必要なこと
生産性の定義はケースバイケースですが、基本は「アウトプット(成果)÷インプット(投入資源)」で表されます。国レベルでいえば「GDP÷就業者数」であり、企業レベルであれば「売上(あるいは利益)÷従業員数」というのが一般的でしょう。
ではなぜ日本は生産性が低いのでしょうか?理由は簡単で名目GDPが90年代後半以降ほとんど上昇していないからです。この間、就業者1人あたり14位から21位に低下しています。
生産性をあげるためには、国レベルではGDPを上げることにつきます。GDP(国内総生産)は、おおむね一国の総需要の大きさで決まります。需要が大きければそれに伴う生産が増え、GDPが上昇します。総需要を上げるためには有効なマクロ経済政策(財政政策と金融政策)の実行しかありません。
一方、企業レベルで生産性を上げるには、需要をつくり売上(あるいは利益)を上げることにつきます。新型コロナの影響で経済全体が縮小する中でなかなか難しい話ではありますが、それしか手段はありません。
◆リモートワークでは付加価値は生まれない
一方で、リモートワークでまちがいなく効率は上がっているという意見もあるでしょう。確かに無駄な移動や無駄な打ち合わせなどが削減されていることは事実です。しかしながら、リモートワークで削減できるようなことは、そもそも付加価値がないこと、言い換えれば売上や利益には直接影響がないことである点には注意が必要でしょう。多くの場合、IT(IoT)で代替できるのは、付加価値性のないルーティンワークにすぎないのです。
新型コロナの影響で、そもそも無駄なことが見直されることは歓迎すべきことです。しかしながら、無駄の削減で浮いた時間を、新たな付加価値の創造に向けなければ、単に時間の節約になるだけで、真の意味での生産性の向上(企業としての成長)には何も貢献しないことは意識したいところです。
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